病理医と地域医療の意外な接点
最後に、僕の展望(野望?)をお話しします。
病理医というのは希少種であることをお話ししましたが、現在深刻な病理医不足に悩まされている科でもあります。病理医が不足するとどんなデメリットがあるのか、実は地域医療を揺るがしかねない大きな問題と関わっています。
病理医の重要な仕事の一つが、癌かどうかの判定を行うことです。今のところ、癌か否かの判定は病理医の眼に委ねられており、病理医以外に癌の判定ができる医師は存在しません。もしかするとあなたの周囲にも癌で手術をした方が、いらっしゃるかもしれませんが、その診断を行ったのは、内科医でもなく外科医でもなく病理医です。癌という確定診断がない限り、手術を行うことはできません。だからこそ、病理医の行う診断は最終診断と言われているのです。
現在、病理医は高齢化がかなり進んでおり、ベテランが一気に第一線から身を引く時代が遠からずやってこようとしています。そうなると地域医療に何が起こるか。特に、大分のような地方都市では今ですら十分な量の病理医がいないため、下手をすると病理医が数名しかいないという状況になりかねません。すると自県だけで全ての癌の診断を行うことが不可能となり、外注を余儀なくされた結果、癌の診断が遅れます。結果として手術も遅れます。下手をすると診断の精度も低下し、誤診が増えることに繋がります。今や国民の半分が癌にかかる時代です。迅速な癌の診断・治療体制の確立と維持が国民全体の予後に大きく関わっていると言ってもよいでしょう。しかし、地方都市ではその体制を維持するどころか確立することさえ不可能な状況なのです。
これを打破するために何ができるでしょう。僕はかかりつけ医ではありますが、まだ病理医としてのマインドを捨て去ったわけではありません。僕が今抱いている野望は、民間の病理センターを構築することです。都会では病理開業もちらほらと出てきているようですが、田舎ではまだまだこれからです。まずは地域のかかりつけ医としてしっかりと根付くことを目標としていますが、いつかは病理センターとしての機能をクリニックに付与したいと考えています。
かかりつけ医として地域の皆様のお困りごとに何でも答えるというだけでなく、病理診断を通じて癌医療にまで関わることで、これまでにない新しい形のかかりつけ医を目指していく所存です。