病理出身のかかりつけ医が最強である理由
病理医が開業医として、ましてやかかりつけ医になんてなれるわけがない、という反論は甘んじて受け入れましょう。でも僕は、病理医を経由したからこそ最強のかかりつけ医になれるのではないかと思っています。内科医・外科医・病理医の特徴を表すとされる次の文章を紹介しましょう。
「内科医は何でも知っているが、何もできない」
「外科医は何も知らないが、何でもできる」
「病理医は何でも知っており、何でもできるが、遅すぎる」
実によくできているものと思いますが、よく読むと、病理医から「遅すぎる」というフレーズを取り去ることができれば最強ということがわかりますね。「遅すぎる」というフレーズには「どうせ病理は臨床に関わってないでしょ」という批判が込められています。だから臨床に携わる気概がある病理医がいれば最強の名を欲しいままにできるのです。そういうわけで、臨床に帰還した病理医である僕は最強と言って良いのではないでしょうか。冗談めいていると思われるかもしれませんが、ユーモアには真理の一面が内包されているのではないでしょうか。
せっかくなので、少し真面目に語ってみます。
病理医と他科の医師が最も違う点は、病理総論を知っているか否かという点です。総論とは、医学が誕生してからこれまでの間に多くの人々の調査によって幾度となく確認された、限りなく真に近い強固な知識のことです。全ての医学の根底にある土台のようなものと考えるとよいでしょう。ずっと専門科で働いてきた医師は、特定の病気に特化した深い知識を有してはいますが、疾患全般を網羅することには長けていません。料理に例えるなら、専門科の医師は、フレンチだけを食べ歩くフレンチマニアのようなものです。一方、僕のような病理総論を勉強した医師は、味覚の成り立ちとか調味料の種類とかそういったレベルの話に興味を示します。特別この料理がというのはありませんが、フレンチでもイタリアンでも中華でもどの話にでもそこそこのレベルでついていくことができます。もちろんそれぞれのマニアに敵わないことは即座に認めます。しかし、分野に縛られない広い見方ができるというのが強みですし、かかりつけ医としての特性を備えているのは明らかに後者であることはお分かりいただけると思います。というわけで僕は声高に主張します。
病理出身のかかりつけ医は最強である、と。