なぜ病理の道に?

そもそも医療従事者じゃない人は病理医の存在自体知らないですよね(フラジャイル知ってれば別ですが)。医療従事者ですら、例えば、PTとかOTであれば、「病理医?・・・何それ?」みたいな反応を返すでしょうね。笑い話で、「ご職業は何ですか?」という問いかけに「病理医です」と返すと、「ああ、病院の調理部にお勤めなんですね(病理を料理と聞き間違えている)」というのがあります。これは単なる都市伝説ではなく、僕の周囲にも実体験者がいます。これほど知名度の低い病理医ですが、医師の間でも群を抜いて人気がありません。なにせ華がないですし、汚いですし、感染の危険はありますし、顕微鏡覗いて独り言ばかり言ってますから、周囲から見たらとてもシュールで近寄り難い存在です。医師の中の3Kと揶揄する人もいますね。
しかし、僕は病理医でした。なぜ、僕が病理医を目指そうと思ったかをまず書いておきましょう。

医師が専門科を選ぶときにはきっと自分なりの動機があると思います。例えば、修羅場に身を置き、一瞬一瞬の選択をする自分かっこいいと思えるなら救急科を選ぶでしょう。あるいは、華麗な技術で人体にメスを入れて、朝から晩まで立ちっぱなしで仕事する自分かっこいいと思えるならば外科を選ぶでしょうし、データを読み解いて体の中で起きている出来事を予測できてる自分かっこいいと思えるならば内科を選ぶでしょう。
では、僕が病理医になろうと思った動機は何か? それは次のようなものです。

    1. 1.最終診断ができるのは病理医だけ
    1. 2.Doctor of doctorsと呼ばれている
    1. 3.希少種だからチャンスが多い
    1. 4.AIなどを用いた近未来医療と親和性がとても高い

1.最終診断ができるのは病理医だけ

診断というのは医師なら誰でもやっていますが、普通は最終診断ではありません。いくらでも診断を変えるのは自由です(コロコロ診断変えてたら、臨床能力を疑われるかもしれませんが)。しかし、病理医が一度診断を下せば、それが覆ることはまずありません。なにせ顕微鏡で病気の本体そのものを見て言っていますから。臨床医がいくら「俺はこの病気はAだと思う」と言い張っても、病理医が「いや、Bですね」と言えば、あっさりBになってしまいます。病理医の意見は極めて絶対に近い。そこに大きな魅力を感じました。

2.Doctor of doctorsと呼ばれている

「医師の中の医師」とか「医師のための医師」とか言われます。要は医師から一番頼りにされている医師ということです。いろんな科の医師がよく部屋を訪ねてきて、臨床側と病理側からの意見を出し、議論します。とても知的な議論を毎日できることは当時の僕にとって、大きな刺激でした。

3.希少種だからチャンスが多い

ある程度医学界で上り詰めることを考えたとき、ライバルは少ない方がいいです。なにせ高学歴、高偏差値モンスターが多い世界ですから、その中で頭角を表すのは至難の技です。例えば、内科医だったら日本に2万人以上います。そこの頂上を目指すのはエベレストに登頂するようなものです。登る山が高すぎます。ましてや僕は再受験で医師になっているので、時間もない。対して、病理医は日本に2000人くらいしかいません。そのうち3分の1くらいは基礎研究者です。そうすると1200人くらいの中での競争ですから巡ってくるチャンスは勢い多くなります。そんな打算もありました。

4.AIなどを用いた近未来医療と親和性がとても高い

僕はAIを医療に活用することに大賛成なのですが、AIか人間かという二項対立などではなく、共存共栄をどう実現するかの議論が非常に大事です。そういった近未来医療と病理はとても親和性が高いので、ビジネスチャンスがゴロゴロあるブルーオーシャンと言っても過言ではありません。が、このことに気がついているドクターは当時はほとんど皆無と言っても良い状態でしたので、未来の医療を牽引するリーダーに自分がなれるのではないかという野心もありました。

病理医は裏方などと言われたりもしますが、僕はむしろ病気の最終形態を解き明かす最後の番人みたいなちょっと荘厳なイメージを感じましたし、頭脳労働が得意な方だったので、必然と病理医に惹かれていきました。こうしてまずは病理の道を歩むこととなったのでした。

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